プールサイドを駆けながら困ったように笑って振り返る君の、眩しい両足から僕は目を離すことが出来ないでいる。白い肌にぽこりと浮き上がる静脈、その美しさに驚く事も忘れて、ただただ恍惚とした表情で君の足を追うだけだ。骨と皮とでもいうべきか、無駄な肉のついていない足の甲は何処までも何処までも僕を連れ行く、深くふかく遠くとおく、水底に沈むように緩やかに。光の届かない優しい暗闇に向って僕の前を直走る。決して僕の手をとろうとしないで前を行く、だからこれ程までに悶々とするのだ。追いつけると思わせながら捉まろうとしない。巧妙な罠だ、君の静脈が僕だけを対象として仕掛けた罠。僕は、そうと知っても僕は、君の足を追いかけずにはいられない。ぽこり、浮かびあがった静脈だけが嫣然としている。
ああ、君の落ち着き払った静脈、其の存在は罪である

水の底で死を待っていたのだと思う。平穏の二文字を追い続けていた日々は静かに揺られながら擁かれながら死を待っていたようなものなのだ。光がさす、胡散臭い其の言葉が少しのズレもなく僕の変化を表現しているといっていい。まさに光だった、僕の沈む水底を照らす光だった。君の足の甲、浮かびあがる静脈、其れこそが唯一の光となった。それからというもの、熱を伴った苦しみが僕を襲い、疼痛を産み落しては退いていく状態が続いている。絶えない痛みではなくて、汗が頬を伝っていくのだけが現実として存在し受け入れられていく。水を出ることは耐え難い痛みを与えられることなのだと、思った

君の浮かびあがった静脈が僕を殺そうとしている。徐々に徐々に、限りなく緩やかに、与えられる痛みが増しているのだ。速やかに全てを奪って欲しいと思うのは僕の我侭だろうか。一度で良い、一度切りで良いから僕に快楽を与えてくれないだろうか。そうすれば僕は、全てを刻み付けて、苦しみしかない未来にも一人でいけるのに。許しては呉れないのだね、二人で生きようなんて烏滸がましい事は微塵も思ってはいないのに、求め願うことは一度切りの其れであるのに、何処までも涼しく美しく微笑んでいる、君の静脈は、其の一度さえも許しては呉れないのだね。そうだと言うなら、それならば、ぼく、は、