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煙草って吸ってる本人はもとより周囲にいる人間にも結構な害を及ぼすって知ってます？煙草を吸っている夏目さんは私の問いかけに対してうるせぇと言うだけだった。勤務中の癖に煙草を吸う夏目さんの肺は既に肺がん予備軍に属する程真っ黒で真っ黒で真っ黒で・・・そのうち肺がんになって、手術して、転移して、最期は若かりし頃の自分に怒りと後悔と恨みの念を抱きながら悔しいなぁって呟いて、そっと逝くんだ

「　夏目さんと多くの時間を、そして空間を、共有しているのは私だと思うんです　」
「　アホ、んなわけあるか　」
「　そんなわけ、あるんですよコレが　」
「　・・・うるせー、どっかいけ　」

煙が私に当たらない様にしてくれていることは知っている。タバコは中毒性があるから止めることは難しいと、その昔、保健の先生が言っていた。きっと夏目さんも「止めることが難しい」一人なのだろう。これは酷い言い方なのかもしれないが、夏目さんからタバコを取ってしまったら、何も残らないような気もするのだ。だから私は夏目さんに禁煙を薦めることはしない。吸っていてもいい、吸っていて欲しい、副流煙が私の肺に忍び込んで静かに破壊活動を始めてもいい。私は、夏目さんの煙草を吸う時の仕草が大好きだ。こうやって少し離れた場所に夏目さんが座って、タバコをはさむ夏目さんの右手が見える位置に私が立って「勤務中の人がなにタバコ吸ってるんですか」なんて可愛げの無いことを言っては、夏目さんの眉間による皺や吐き出すタバコの煙を見て心を満たす。かわいげのない　わたしですが　すきです　わたし　なつめさんがすきだ

「　夏目さんはきっと私を徐々に徐々に死に近づけていく気なんですね　」
「　何を言ってんだ、お前　」
「　副流煙を利用して私に夏目さんと同じ末路を辿らせようとしてるんだ　」
「　噛み合わねぇなぁ、お前との会話は　」
「　素晴らしい、実に長期的な計画ですねぇ、ふむ　」
「　いい加減、黙れよ　」

夏目さんの眉間による皺が更に深くなった。それでも私は夏目さんがタバコを吸うところを見逃すのは嫌だし、ずっと黙って見つめているのも嫌だ。会話をすることに大きな意味がある。吐き出された煙ではなく夏目さんの唇が動くたびに漏れ出す煙を見るのも好きだから。

「　そんな長期に渡って夏目さんが私の隣にいるなんて夢のようです　」
「　居ねぇよ、そんなの御免だ　」
「　居ますよ、夏目さんは　」
「　変なところで頑固だなぁ、お前　」
「　夏目さんの吸うタバコから発生した煙が、私の肺を壊してしまう程、一緒に、　」
「　わかんねぇ、おまえのいってること、なにひとつ　」

ひと際長く煙を吐き出した夏目さんの、眉間によっていた皺がすっと消えた。これは、夏目さんの癖だ。自分では気がついていないようだけど、本当に怒っている時、眉間の皺がすっと消える。それを見た途端に、もっともっと直接的な言葉で私の気持ちを伝えてしまおうか、なんて甘い考えは打ち砕かれた。いつだって、夏目さんは逃げていく。気がつかないフリで逃げ切れないとなれば、不機嫌な態度で拒絶をする。いつも、だからそう、わかりきったことだったんだ。夏目さんお得意の汚い言葉で罵って、嫌悪してくれた方が、静かに拒絶されるより、もっともっと楽になれるのに。夏目さんは、何処まで意地が悪いのか。意地悪を止してくれないのなら、私はいつまでも夏目さんの傍に行きますよ。それこそ、タバコの煙が私を、そっと、壊してくれるまで

私を蝕んでいくのは　タバコの煙か　それとも