5 meters in depth
お兄さん指が悲鳴をあげている。空を刺す様に高くて綺麗な悲鳴をあげている
だけど、君は更にホッチキスを握り締める右掌に力を込めるだけ
爪の付け根が真白に変色する様子を穢いものを見るような目で見ているだけ
其の目が私を見つめたらどうなるのだろう、私はどうなってしまうのだろう
酷く曖昧な意識の中でそう考えてから、ゾクゾクと疼いた臍の近くを思い切り抓る
いたい、いたい、いたい、だけど、どんな痛みさえ、私の欲情を、どうにも、出来ない
君の視線が目が眼球が其の黒い瞳が、ほしい、ほしい、ほしい、
光を失った眼球さえ愛しい愛しいあなたの冷たい眼球冷たい視線どちらも愛しい愛しい私を射殺す視線眼球もっともっと痛めつけてよ死ぬ寸前まで追い詰めて追い詰めて追い詰めてそして最後に寂しそうに笑ってねぇ笑ってそしたら私は幸せになれる大丈夫大丈夫幸せになれる濁りきった眼球に空の蒼を映してそっと瓶に浸けるよ大切にするよだから 殺して
8 meters in depth
ヒラヒラ揺れるスカートの裾を握りしめる
引き止める為 繋ぎ止める為
そんな馬鹿げた事の為ではない
裾を握り締めた右手は紛れも無く
君を道連れにする為の右手なのだから
10 meters in depth
左手首から滴り落ちる鮮血がまるで涙のようだと思っていたら両目から本当に涙が生まれて
あぁこの鮮血はやはり涙なんかではないのだと気がついた
紛れも無い血液
ヘモグロビン
酸素酸素酸素
26 meters in depth
君の背中の大きさにはウンザリだ
思い切り引掻いて切り裂いて
傷の間から顔を覗かせる肉を舌で突付きたかった
其れすら許さないこの白い布が憎たらしい
蒼い空に浮かぶ光の塊
纏わりつく黒髪
溶けたアイスクリーム
プールのにおいと歓声
鬱陶しい、鬱陶しい、鬱陶しい!
お前の背中も白い布もぜんぶぜんぶぜんぶ
ガタガタと揺れる掃除用具箱に押し込んで
どこか遠くへ行くことを願ってみようか
夏の暑さと消えてしまえ
35 meters in depth
どこまでも深くどこまでも遠く追いかけてくる
長い長いお兄さん指を食いちぎってやった
ざまぁみろお前は死んだのだ