39 meters in depth

黒い毛をした犬の瞳はやけに赤くてお前は兎なのかと其の巨躯に問いかけてみたくなったのだがあぁこんな大きさの兎がこの世に居たのでは可愛い動物として子供達に抱かせる事も出来なくなってしまうかもしれないよなと自分の愚かさに笑った。黒い毛をした犬の瞳に最早私は映っていない。おい、お前は何処から来たのだ、おい、お前の飼い主はどこだ、おい、お前の名はなんと言う、おい、お前の瞳は何故赤い、おい、おい、おい、血色に染まった瞳、あかいひとみ、あかいひとみ、おい、おい、おい、お前は俺を喰らったのだな

41 meters in depth

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ぁ

47 meters in depth

あなたの身体が足先から頭に向かって段々と腐っていくのが解ります
あぁもっと、もっともっともっと腐敗して私を悦ばせて満足させて
この世で唯一私を幸せに出来る人よ
もっとゆっくりじわじわと苦しみながら腐敗して欲しい
正常に機能するのが首から上だけとなったその時
私はあなたが好きだと言った笑顔を浮かべながら額にキスをします
其れだけであなたは脳の腐敗すら受け入れる
あぁ悲しいわ私はとても悲しいのよきっとあなたを愛していたから
この世で唯一私を幸せに出来る人よ

55 meters in depth

温かい言葉や勇気付けられる言葉そんな陳腐なものを望んでいたのかお前は
厭きれるほど馬鹿だなお前は
縋りつくものが欲しいか支えとなるものが欲しいかならば与えよう明るく輝き全てを包み込む光ではなく静かに迫り全てを飲み込む暗闇を与えようさあ早く逃げろ捉まらないように飲み込まれないように乱れる呼吸がまるで自分のものではないような感覚に襲われ暴走する心臓を沈める術も解らぬままで、ただ、ただ、逃げろ、逃げろ、逃げろ
厭きれるほど馬鹿だなお前は
既に闇の中に居る気になっているのか馬鹿がお前の背後には全てを飲み込む闇があるとまだ気がつかないのか光を憎んでいるフリなど誰にも通用しない自分ばかりを騙してなにが楽しい自己満足と言われ怒り狂うくせにお前は何をしているんだ
厭きれるほど馬鹿だなお前は

56 meters in depth

美しい?美しいだと?其の白い首を美しいと言うのか?
自身の白い首が美しい故に、この私がお前を抱いていると思っているのか
は、何とも愚かな女よ、お前は救いようの無い程に愚かな女であるな
お前の其の白い首は決して美しくなど無いのだ お前の白い首は、哂えるほどに、醜い
あぁ、醜いのだよ お前の首は酷く醜いのだ 吐き気を催すほどに醜い
では何故私はお前を抱くのか、何故其の白い首を欲するのか、教えてやろう
数え切れぬほどの人間の血を浴びてきた私が、未だに人間で在るのだと確かめるためだ
其の為に私はお前を抱く 其の為に醜さに吐き気を催しながらもお前を抱いている
お前の人間臭く醜い其の白い首は、私がまだ人間で在る事を確認するのに丁度良いのだよ
もし私が獣になってしまったのなら、白い首になど目は向けぬ
ただ、艶やかな黒髪に覆われた頭部を食いちぎるだけだろう
私はまだ、人間だ、だから女を抱く お前は黙って待っていれば良い
獣と成果てお前の頭部を食いちぎる私を、其の日を、お前は黙って待っていれば良いのだ